2021.09.27

もしもインタビュー 梶川建設篇 前編

愛知県碧南市に本社を置く株式会社梶川建設は、土木基礎事業をメインに建設業を営む明治38年創業の老舗企業。2020年8月にはこれまでの建設業界の「きつい・きたない・危険」というイメージを変えていくための「3Kプロジェクト」をスタート。創業116年目を迎える企業がチャレンジする新たな取り組みと「防災・減災」に対する想いについて、社長の梶川光宏さんにお話を伺いました。


梶川建設のもしもプロジェクトへの想い

(もしも)もしもプロジェクトに参画した経緯を教えてください。

(梶川さん)渋谷を舞台に、広告掲出や避難訓練などのイベントを通じて、若い人たちに今後起こり得る大きな地震に対する危機意識を持ってもらうという取り組みに興味を持ちました。また、「3Kプロジェクト」で作っているキャラクターとコラボレーションができそうというのも魅力でした。弊社は地盤を強化するための土木基礎事業などを行なっており、私たちの一番の仕事は「地震や自然災害から国土を守ること」なんです。「もしもの備えを築いていき、多くの皆さんの命を守る、財産を守る」という強い想いを持って、事業を営んでいます。「もしもプロジェクト」のお話を伺った際に、一緒に取り組むことでより多くの人を守っていくことにつながると思ったんです。

(もしも)御社の事業は、まさに「防災・減災」の根幹を担っているんですね。漢字で「防災・減災」と書いてしまうとなかなか伝わらない。であれば、見え方・伝え方を変えてみようというところから「もしもプロジェクト」はスタートしました。共通の課題みたいなのがありそうですね。

(梶川さん)そうですね、なかなかこういった機会でもないと我々のやっていることを広く多くの方に認知いただくきっかけがないというのも事実です。「もしもプロジェクト」のような新しい取り組みをチャンスと捉えて、積極的に情報発信をすることで社会を良くしていくことにつなげていきたいですね。

(もしも)東日本大震災から10年を迎えた今年、「防災・減災」を「もしも」と言い換えて、若い人だけでなく、ファミリー層に向けても、もしもの時のために自ら備えるというのを伝えるべく取り組んできました。この「防災・減災」の啓蒙というのは、なぜこんなにも伝わりづらいのでしょうか?

(梶川さん)一般の方の生活の中で、「防災・減災」という言葉が出てくることってないですよね。大きな地震や水害などのニュースがあったときは多くの人も「もしもの危険」について意識するかと思うのですが、なかなか日常で目を向けることは難しい。だからこそ、伝わりやすい言葉で定期的に伝えようとすることが大切なのかもしれません。私たちは仕事柄、実際に震災が起きたあの痛たましい映像が脳裏に焼き付いている。大きな災害は今後も必ず起きる。その時に少しでも被害が大きくならないように工事をやっていきたいと社員一同仕事に取り組んでいる。でも、一般の方にとっては、「防災・減災」という言葉自体が難しいもの、縁遠いものに感じさせてしまうんでしょうね。

(もしも)そうですね、内閣府の推進する「国土強靭化計画」という言葉もさらに難しいですし。難しい言葉だけではなかなか伝わらないですよね。御社の取り組まれている地盤を強くするための工事も、こんな工事をしていますとわかりやすく伝えると興味をもってもらえるのかもしれないですね。地盤を強くするって実際にどんなことをしているんですか?

災害に負けないインプラント工法

(梶川さん)一般の方が目に触れる機会はまずない工事なのですが、、、鉄の板を地盤に押し込んでいく工事です。その鉄の板を連続して打ち込んでいくことで、土の中に壁を作るということをしています。例えば、土の堤防の強化についてお話をしますと、堤防を乗り越えてしまった水がさらに堤防を侵食していく様子をご覧になったことはありますよね?これは堤防が土なので濡れると弱くなってしまって、その影響で上から順番に堤防が崩れていってしまうことで起きる現象なんです。そういうことがないように、堤防の中に鉄の板や鉄の管を連続して壁のように打っていく。外観は以前の堤防と変わらないんですが、万が一大きな地震による津波が来たり、集中豪雨などが来たりしても、それらに負けないような強固な壁が内側にできているので崩れなくなっているんです。

(もしも)目に見えないところでそんな工事がされているなんて知らなかったです。でも、なぜこのような工事がされるようになったんですか?

(梶川さん)堤防を作り替えるという時に、昔ながらのやり方ですと、一度掘り返して、その上にコンクリート製の堤防を作ることもあるんですが、それでは東日本大震災の時のような大きな津波が来てしまうとコンクリート製の堤防ごと流されてしまうんです。上に乗せるタイプの堤防は実は弱い。インプラント工法と呼ばれる元々あった強固な地盤に直接打ち込んでいく工法なので、ちょっとやそっとでは壊れない強い壁を作ることができる。これは本当に理にかなった工法なんです。東日本大震災が起きた時にもこの工法で作られていた堤防は実際に流されずに残っていたという話もあります。そんなこともあって、今では多くの設計に取り入れられるようになっている。北は北海道、南は九州の方まで全国各地に仕事で伺わせていただいています。我々の工事は小スペースで工事を行うことができるので、特に都心部であったり、広く場所を設けられないようなところでは非常に利便性も高く、この工法が採用されています。

(もしも)「防災・減災」というと、一般の方に向けて「備えましょう」と訴えるか、日本が「いかに災害が多くて、脆いか」を伝える内容が多いのですが、梶川建設さんのように弱いところを強化して安心安全を作る工事をしてくれている人たちがいるということを発信しなさすぎなんだなと気づきました。そこに一般の方が興味を持ってくれて安心な環境が増えていっているということを知ることで、「周りがやってくれているのだから、自分たちも備えなきゃな」という意識転換につながるきっかけが得られるような気がしました。


社会を守るための公共工事を進めていく

(https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/nteq/assumption.html)

(もしも)梶川建設さんは愛知県にある企業さんということもあるのでお聞きしたいのですが、今後数十年間の中で必ず起こると言われている「南海トラフ大地震」がありますよね。関東から九州までの太平洋沿岸で大きな地震と津波による被害が想定され、東日本大震災や首都直下型地震以上の経済的被害が出るリスクがあるとも言われている。この「南海トラフ大地震」への対策として現在取り組まれている工事などがあったら教えてください。

(梶川さん)実は今は地震対策工事というのはすごくたくさん行われています。備えるという部分では、国土強靭化計画のもとに全国各地で危険度の高いところから優先的に取り組むために工事が発注されている段階です。なので、特別にこの工事がというのは色々ありすぎて一つをピックアップするのは難しいのですが、障害があってはまずいインフラ、例えば首都高や線路の土手といったところの強化というのは順番に取り組まれていっている。特に都心部というのは、最重要な場所になるので、予算の付き方も集中しているのが伺えます。

(もしも)普段耳にしたりする機会がないので、知らなかったです。もっと国や地方自治体もこのような素晴らしい取り組みをしていることを言ってくれればいいのにと思ってしまいました。新型コロナの感染者数とか、目の前に見えていることに関する情報にメディアが集中しすぎて、そうではない本当は語られるべき情報が伝えられてないケースが多くあるように感じました。

(梶川さん)そうですね、以前政権が民主党に切り替わったときに、「公共工事=良くない」という負のイメージがメディアを通じて強く打ち出されてしまった時があり、正直いまだにそのイメージが国民の皆さんに残ってしまっているように感じることもあります。もちろん、無駄な公共工事というのはやるべきではないです。しかし、目前に迫った危機的な状況を回避するための工事というのは絶対になくてはならないし、最優先にするべきこと。そういったところが世間の皆さまにも見えるようになるといいですよね。

(もしも)首都高とかの目に見える部分の工事はやっていたら目につくので気付けるかもしれないけど、目に見えないインフラの部分を整えていってくれていることは言ってくれないとわからない。目には見えないけど、大切な取り組みというのはもっと情報発信しないといけないですね。

(梶川さん)そうですね、正しく伝わっていってくれると嬉しいですね。近年でも日本は阪神淡路大震災や東日本大震災といった大きな震災が起きていますが、その度に基準を変えて進化してきたんです。例えば、阪神淡路大震災の時は軒並み高速道路が倒れてしまっていたのですが、その後高速道路の耐震化を進めていったので、構造物の安全性というのは非常に高まったと思います。日本の良いところは、何か起きたことにより、その対策が講じられ、法律なども変えながら対応が進むところ。起きないことには取り入れられづらいといった前例主義のような側面もあるので、そこがもう少し変わって新しいことが取り入れられやすくなってくるとより良くなっていくと思いますけどね。一方で、まだ課題となっている部分もあります。東日本大震災後は河川や堤防の脆弱性がクローズアップされました。この部分はこれから強化していくことになると思います。最近では大雨による水害も多く起きてしまっていますね。土の堤防は年月を経るにつれて、脆くなっている可能性があるし、やはり濡れると弱い。弱くなった部分が決壊して、被害が拡大してしまう側面があるため、我々の技術を使ってそういった堤防を強化することで河川の安全性を高めていくことに貢献していきたいです。日本の建設の技術は世界でも役立っている事例もたくさんあります。災害大国と言われるような日本が災害と戦う中で得た知識や技術というのを世界に発信していき、住みやすい安全な環境づくりに貢献していくことも可能だと思っています。

(もしも)ありがとうございます。日本の災害と戦う力が世界に拡がっていって、技術力が高く評価されるようになるというのは嬉しいですね。(後半へつづく)


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