もしもインタビュー こくみん共済 coop篇 後編
助けられた側が助けていくことで
「たすけあい」は広がっていく
(もしも)もしもプロジェクトを通じて世の中に伝えていきたいメッセージとは何だったのでしょうか?
(髙橋さん)災害が発生すると多くの人は被災者ですから「たすけを必要とする人」になる。それをちょっと工夫することで「たすけを必要とする人」が今後は「たすける側」に回れるんじゃないかということ。被災した状況下においても、「たすけあい」なので、たすけたり、たすけられたりする。それにつながっていく活動ができないかと考えています。ベースは公助、国の仕組みかもしれません。その上に、通常だと自助、あとは自分でなんとかしてくださいとなる。それだけじゃなくて、共助という、お互いにたすけあう仕組みができていってほしい。何かが発生した時に、とりあえずたすけあえる世の中に。自分がたすかるためにどうするかだけでなく、自分がたすかるのと同時に、たすけを必要とする人をたすけられる人にもなってほしい。それが「お互い様」だよねと。そんな気運や情勢を作っていきたいです。
(もしも)しかしながら、自分がたすかる備えですら足りていないのが現状で、人をたすけられるようになってもらうためには、まだまだコミュニケーションが足りない部分があると感じています。
(髙橋さん)東日本大震災や阪神淡路大震災で被災された方々の中には、自衛隊や消防隊にたすけてもらったという経験から、今度は自分がたすける側に回りたいと自衛隊や消防隊に入る方々もいらっしゃるようです。たすけられた側が今度はたすける側に回る。このたすけたり、たすけられたりの繰り返しみたいなものが社会の文化になっていくといいなと思います。ともすると、自分主義みたくなってしまう。自分さえ良ければと。そうではなく、自分が困る時もあるし、困っている人に手を差し伸べることができたらもっといいよねという気づきを発信していきたいですね。
(もしも)もしもプロジェクトを3月から立ち上げて、5月のGWまで展開するなかで、手応えを感じている部分はございますか?
(髙橋さん)発信力があって、いい取り組みだと感じています。ちょっと残念だったのは、緊急事態宣言中で、渋谷の街に来ていただくことが難しい期間での開催となってしまったこと。そのことを除けば、キックオフミーティングや宮下公園での黙祷プロジェクトなど、色々なところに取り上げていただけたし、TwitterやSNSで多くの共感が得られたことからも第一歩は踏み出せたなと手応えは感じています。
問題はこれを単発で終わらせるのではなく、継続をしていくということですね。GWで仕掛けたことを、また時期を変えてもう一度チャレンジしたいと思っています。そして、この渋谷の取り組みを、大阪や福岡など全国各地へと広げていきたいですね。もしもプロジェクトが全国で10箇所とか15箇所とか展開できると、いつか「全国もしもDAY」というような取り組みをできるかもしれませんね。この先、新型コロナウイルスが収束し、新しい時代になっていくときに、もう一度工夫をしながら世の中に発信していくことで、もっと注目され、より多くの方に共感していただければと思います。
「たすけあいの精神」を未来へつないでいく
(もしも)なぜこくみん共済 coop の中で「たすけあいの精神」がDNAとして受け継がれているのでしょうか?
(髙橋さん)多くの保険会社が求めるのはおそらく経済的価値。だからこそ、スタートは事業であって、そこに経営があり、経済的な成長を追求していく。ですが、私たちのルーツは、正式名称にあるように「労働者のための共済」です。働く人同士がお互いにもしもの時を支え合おうという運動から生まれています。自分をたすけるだけではなく、周りをたすけるためでもある。ルーツが「たすけあいの精神」として引き継がれている。これは絶対に変えてはいけないものとして今後も引き継いでいかなければならないし、教育もされています。
例えば、火災で家が焼けてしまったときに、私たちは現場におうかがいし、ご契約者も気付いていない被害を見つけていくんです。
(もしも)支払う側がですか?
(髙橋さん)はい、地震の時もそうなんです。「これは地震によるヒビじゃないですか?」とか。できるだけお支払いになるようにしましょうね、と日頃の研修でも教育されています。それは先ほど申し上げたルーツのところで、もし何かあった時にみんなが困ってしまうのでそれを支え合う仕組みとして生まれたというのが大きい。事業とか経営から入っているのではなく、“運動”から入っているというのが大きな違いなんです。
(もしも)まさに「たすけあい」という概念そのものが組織になったというようなすごい話ですね、、、
(髙橋さん)生活協同組合なので、事業はしっかり行いますが、利潤を追求したりということはしない。余ったら、その分を加入者にお返ししたり、将来に備えるため内部留保したりと、基本的には全て加入者である組合員さんのためを考えています。職員一人一人もこの「たすけあいの精神」を胸に秘めて職務にあたってくれています。特にそういう素地がある方だけを採用しているわけではないですが、入ってきた人たちが私たちの歴史に共鳴し、「たすけあい」の素晴らしさについて繰り返し触れることで変わっていくんだろうと思います。もちろん、採用前の段階で「たすけあい」に関心をもったからこの組織を選んだ、という人が多いことも大変喜ばしいですね。
(もしも)小さい頃の授業で「たすけあい」という科目があったら世の中変わっていくかもしれないですね、、、
(髙橋さん)そうですね、実はいくつかの大学で寄附講座を担当しています。ある大学では「共助の仕組みと共済の役割」というお話しをしました。今日のようなお話しだったのですが、学生さんからは「本当にそこまでやるのかと驚いた」「私もそういったことに携わりたい」といった感想をいただき、とても嬉しく感じています。そういうマインドを持つ人が少しでも増えて、広がっていくことに寄与していきたいですね。
(もしも)たしかに、今の若者と呼ばれる未来を背負っていく世代ほど、「たすけあい」という考えに関心が強いと思うので、共済の考え方はこれからの時代にマッチしていると感じました。
(髙橋さん)2019年の6月にこくみん共済 coop という愛称を定め、ブランドを刷新した時に、正式名称の英語名は「Insurance」ではなく「Kyosai」としました。保険という経済的な保障だけでなく、「たすけあう」という運動的な意味が含まれた「Kyosai」が世界標準になるように発信していきたいと考えています。経済的な保障を良くするということも大事なのですが、それだけではなく「たすけあう」という運動自体を大事にし、これをいかに広めていくかということが課題ですね。
(もしも)もしもプロジェクトも含めた「これからの防災・減災プロジェクト」にも課題はあるのでしょうか?
(髙橋さん)「防災・減災」の取り組みは私たちだけではできません。同じ志をもった人や組織と一緒に「共創」活動として、いかに広げていけるかが最大のポイントであり、課題です。渋谷区は「ちがいをちからに」というスローガンを掲げています。私たちも1足す1が単に2ではなく、力を組み合わせることで3にも4にもなっていく、そんな力を発揮しあえる関係づくりをしていきたいと考えます。そんな多くのパートナーと「共創」していくことで、新しい価値を生み出すことができるし、新しい展開が生まれてくる。今回のもしもプロジェクトもいろいろな組織・企業の皆さんと一緒に取り組ませていただいたのですが、もっともっと裾野が広がって多くの企業を巻き込んだ取り組みにしていきたいですね。そうすることで渋谷の街全体に良い影響が広がって、街が変わり、日本も変わっていくような取り組みにできるのではないかと。
一方、コロナ禍ということもあって、なかなか対面でお話しすることが難しいので、「心合わせ」がしにくいというのも課題に感じています。もちろん最低限のことはオンラインでもできますが、最後の「心合わせ」、お互いの共感を生むようなことはやっぱり対面が大事だと感じます。その環境が整ってくれば、もっと取り組みが進むのではないでしょうか。
コロナ禍により、社会の絆とかたすけあいといった共感を呼ぶ軸が、見直されていると感じています。みんながハッピーになっていく仕組み、SDGsでいえば「誰一人取り残さない」ということにコミットしていくような企業・団体が増えていくことで、そのことが新たな経済や社会の発展につながっていく、そんなことが実現できたらいいなと思っています。そのためにも、同じ業種・業界だけが集まるのではなく、違いがある中で力を合わせられる関係づくりがしたいですね。みんなでやるとすごく大きなことができる、そういう仕掛けを作ることができると嬉しいです。
(もしも)我々も、渋谷区の企業だけでなく、日本全国の企業・団体に広がるたすけあいの仕組みになるよう、微力ながら取り組んでいければと思います。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。